【解説】2021年3月16日夜に起こったアトランタ銃撃事件をめぐって、カナダのバンクーバーを拠点とするアボリショニスト団体「Asian Women for Equality」のメンバーであるアリス・リーさんとスザンヌ・ジェイさん、およびアメリカのサンフランシスコを拠点にしているアボリショニスト研究調査団体「Prostitution Research & Education」のメリッサ・ファーリーさんの3人が書いた記事を翻訳し、執筆者の許可を得てここに掲載します。
アリス・リー、スザンヌ・ジェイ、メリッサ・ファーリー
ScheerPost, 2021年3月25日
人種差別主義者は、攻撃する相手の人間性を標的にする。アトランタのスパ殺人事件では、2人の中国人女性と4人の韓国人女性が、人種差別主義者の白人男性によって大量殺人の標的にされた。殺された女性たちはどのような人々なのか?【どのような力が彼女たちをアトランタのマッサージ売春店に向かわせたのか? 彼女たちの家族や友人がどれほど悲しみに暮れていることか。彼女たちの子供はどこでどうしているだろうか。】マッサージ売買春を含む性産業に従事している女性たちの89%が、逃げ出したいと切に願っていることを私たちは知っている。彼女たちは次の週、次の年にどんな計画を立てていたのか? どうして彼女たちはこんな脆弱な立場(vulnerable)に置かれてしまったのか? そして今、どうやって私たちは彼女たちの生と死に正義をもたらすことができるのか?
私たち3名の執筆者のうち2人はアジア人だから、殺人事件が示唆する脅威と恐怖をすぐに理解した。それは、すべてのアジア人女性が同じような脆弱な立場にあるということだ。なぜなら、アジア人として見られるかどうか、女性として見られるかどうかを選択することは、私たちにはできないからだ。新型コロナウイルス・パンデミックの間、白人至上主義に煽られた反アジア的人種差別が強まり、偏狭な差別主義者たちが新型コロナウイルス(COVID-19)の原因をアジア人に求めてアジア系の人々を非難した。国家の指導者自身がこのような攻撃を煽ったアメリカと違って、国の指導者たちが寛容と忍耐を求めたカナダにおいてさえ、公共の場でアジア人に対する暴力が劇的に増加した。その中で女性、とりわけ高齢女性がターゲットにされている。私たちは公園や公共交通機関などの公共の場を避けるように警告され、女性一人一人の自由が大幅に制限されている。
パンデミックにもかかわらず、アジア系マッサージ売春店は活況を呈し、店内では女性たちを買う買春者でにぎわっていた。北米の公共空間でアジア人を標的にした暴力、人種差別、ミソジニーは、アトランタにおけるようなマッサージ売春店での買春者の人種差別のうちに集中的に表現され、強化されている。そうした場所で買春者たちは世間の目から身を隠しつつ、公的な機関によって保護されている。これらの男たちは、女性たちの無力さが圧倒的な現実である状況下で、アジア人女性に対する男性の人種差別的・女性差別的なステレオタイプ(従順、エキゾチック、性的に過剰)を満足させるために女性たちを買っている。しかし買春者たちは、合法的なサービスを受けるためにそこに来ているという体裁のおかげで守られている。
アトランタをはじめとする各市の当局は、そのような体裁づくりに加担し、これらの施設を認可する一方で、これらのビジネスが売春宿や人身売買の現場であるという明らかな警告には目をつぶっている。【事件現場となったアトランタの3つのスパ(ゴールド・スパ、アロマセラピー・スパ、ヤングス・アジアン・マッサージ)はすべて、アジア人女性が買春のために人身売買される場所であり、この3つのスパはすべて、オンラインで売買春の宣伝をしている。】ゴールド・スパは売春での逮捕歴がある。これらのスパのうち2つはアトランタの性産業が盛んな赤線地区にある。
これら3つのアジア系マッサージスパは、いずれも「RubMaps」と呼ばれるサイトでレビューされており、その中には買春者が「性的サービス」を得ていること、つま売買春がなされていることを示すレビューも含まれていた。『アトランタ・ジャーナル・コンスティテューション』紙の報道によると、「RubMaps」は、買春者が「スパ」にいる女性たちを公に評価することを奨励するオンラインサイトで、ほとんどの男性は女性のエスニシティ、年齢、胸の大きさなどを注意深く書き込んでいる。犯人がターゲットとした3つのアジア系マッサージスパはいずれも、「何年も前から数十件のレビューが RubMaps に掲載されており、顧客とおぼしき人物がスタッフとの性的体験を購入している」。アトランタの襲撃犯がターゲットにした店を含むアジア系マッサージスパのレビューは、AMP(アジア系マッサージパーラー)でFS(フルサービス)を受ける方法を買春者に指示するなど、法の取り締まりを逃れながら売買春を促進するような特殊用語で売春を宣伝することが多い。
本論文の3人の筆者のうち最初の2人は、マッサージ売春店で人身売買されたアジア人女性のための被害者保護活動をしてきた。アジア系マッサージ「スパ」売春店の内部で見られたことは、人身売買の危険信号となる指標に関するアンジェラ・シューの指摘と一致する。これらの指標には以下のものが含まれる。1)パスポートの没収、2)借金による束縛、つまり女性がオーナーや人身売買業者に法外な額の借金をし、その借金を返済するために何ヶ月も何年も働かなければならないこと。3)女性にドラッグが与えられ、彼女たちを依存症にさせてコントロールすること、4)交通手段やインターネットへのアクセスを制限したり、買い物の付き添いをしたりして、女性を常に監視すること、5)「仕事」を辞めて別の仕事を探す選択肢を否定すること、6)ボスやピンプが意図的に女性に精神的な依存を引き起こすこと、7)ボスやピンプが、女性が売春店経営者に社会的コンタクトを取るのを制限すること。
私たちは、フルトン郡の人身売買捜査班の元責任者であり、ジョージア州司法長官事務所の元人身売買担当検察官であるカミーラ・ゾルフィガリ氏に話を聞いたが、人身売買の警告サインについての記述は、アジア系マッサージ売春店内に関して最初の2人の著者が指摘したことと同じであった。アトランタのマッサージビジネスにおける人身売買の警告サインは以下の通りだ。1)女性たちはマッサージ・パーラーの中で生活しているように見え、建物から出ることはほとんどない。 食料品が女性たちのところに届けられ、女性たちがその場を離れる場合には、厳重な監視下に置かれる。ゾルフィガリ氏は、このような管理体制のために、女性たちは、近所の人や人身売買防止の支援者、警察に助けを求めることができないと説明している。2)「セキュリティ(監視係)」が常に存在している。その目的は、覆いがつけられた窓、窓や入り口に取り付けられた格子、入退室用のセキュリティブザーなどを使って、中にいる女性たちを管理することである。3)買春者は裏口から出入りすることで、自分たちの行動を世間の目から隠すことができ、法執行機関の監視を避けることができる。4)マッサージパーラーにいる女性たちのネットレビューには、買春者が購入することのできる具体的な性行為が記載されている。5)マッサージパーラーの営業時間はしばしば週7日、1日24時間、あるいは深夜にまで及ぶことがあるが、これらは通常の営業時間ではない。6)マッサージパーラーは、ダミー会社によって所有されていることがある。ライセンス取得問題を回避したり、逮捕後の身元を隠したりするために、同じオーナーによって売買されている。これらのオーナーの中には、組織的な犯罪グループのメンバーであることが知られている者がいる。
サンフランシスコ市長は2006年に、同市のマッサージパーラー店は認可を取得しているものの、「アジア人の性的人身売買ビジネスの活況を象徴しており、ほぼ罪に問われることなく運営されている」と認めている。それらの店で、ピンプたちは女性のパスポートを没収し、法外な食費や家賃を請求して女性を借金漬けにし、買春者の機嫌を損ねた女性には罰金を科している。マッサージ売春に関する2つの追加調査では、2019年と2020年に同様の結論に達している。
アトランタ市は、スパで女性の人身売買が行なわれていることを認識するべきだ。そして、フロリダ州で売春店経営者のロバート・クラフトが保護された事件のように〔フロリダ州でマッサージ売春店を経営していたロバート・クラフトが売春あっせん罪で逮捕されたが、その時に証拠とされた監視カメラの映像が違法なものだと裁判所で判断されて、証拠から排除された〕、けっして逮捕されるべきではないアジア人女性を犠牲にして買春者やピンプを保護し続けるのではなく、売春店を閉鎖すべきだ。
次の記事で私たちは、北欧モデル型立法という進歩的な法律をもってすれば、アジア系マッサージ売春店にいる女性たちを保護することができ(彼女たちを非犯罪化し、離脱支援サービスを提供することによって)、それと同時に、搾取者や捕食者たち(買春者、ピンプ、人身売買業者、売春店経営者)に対して、女性たちがこうむった虐待や暴力の責任を負わせることができることを説明するつもりだ。北欧モデル法は現在すでに8ヵ国で実施されており、性売買サバイバーや反人身売買運動の支持者から広く支持されている。
グローバルな性売買はますます、すべてのアジア人女性の人間性を奪うことに寄与している。各市がアジア系マッサージパーラーを許可していることは、女性を見捨てることになるだけではない。それは、アジア人女性の権利、安全、人格が、男性の買春要求やピンプと人身売買業者の利潤要求よりも重要ではないというメッセージを送ることになる。アトランタの性売買のサバイバーが私たちに説明したように、「女性たちに売春させていることで有名な場所が、大規模な合法的ビジネスとして機能することが許されているかぎり、これらの女性たちは希望を持てないし、安全だとも思えません」。彼女は言う、「アトランタ市やアトランタ警察(APD)が見て見ぬふりをしているという印象を強く受けます」と。
これから何日にもわたって、一般市民は、女性を保護する唯一の方法は、ピンプや売春宿オーナー、そして買春客を非犯罪化することだと聞かされることだろう。これは嘘であり、もしそれを真に受けてしまうなら、アジア人女性に致命的な結果がもたらされるだろう。今回の残虐な殺人事件を、私たちアジア人女性に危害を加える男たちを免罪するために利用されるべきではないし、ピンプや買春者、人身売買業者に利益をもたらすために利用されるべきでもない。むしろ私たちは、ロバート・アーロン・ロングのような男に奉仕するという構造的な抑圧から逃れるための真の選択肢を女性たちに提供することによって、人種差別的で性差別的な売買春を廃絶しなければならない。
This article was originally published in English in Scheerpost.
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